青山学院における未払賃金訴訟とその背景について

〔訴訟の原因と背景〕

 学校法人青山学院の教職員319名は、2014年10月31日に、学校法人青山学院を被告として、東京地方裁判所において未払い賃金請求訴訟を提起し、現在、審理中です。
 この訴訟の発端は、学校法人青山学院が、一時金を削減するために、就業規則に規定されていた一時金の月数を削除したことにあります。学校法人は、以下のような労働条件の変更理由を挙げました。1) 2012年度の決算で帰属収支差額が2年連続して赤字となったこと、2) 2013年度及び2014年度も到底改善が見込めない状況であったこと、3) 青山学院の人件費比率が高率であること、4) 当時の状況が継続すれば2013年度から2022年度の10年間で366億円もの資金不足となること(10年シミュレーション)、などです。

 労働契約法第9条本文は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と規定しており、これが労使関係の原則です。ただし、同法第10条において、例外的に労働条件の変更が合理的なものである場合に、労働者と合意することなく不利益変更をすることができるとしており、その合理性の判断要素として、(1)労働者の受ける不利益の程度、(2)労働条件の変更の必要性、(3)変更後の就業規則の内容の相当性、(4)労働組合等との交渉の状況、(5)その他の就業規則の変更に係る事情、を列挙しています。そして、就業規則の変更が労働契約法第10条に照らして合理的かどうかの評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、使用者側が負うことになっています。

 私たちは、訴訟において、青山学院の財務状況について専門家の鑑定意見書を提出し、1) 就業規則どおりの月数の一時金を支給しても2013年度及び2014年度は黒字になっていたこと、2) 将来計画である「10年シミュレーション」の予測は2013年及び2014年決算と齟齬をきたしており既に破たんしていること、3) 青山学院は、労働条件を変更しなければならない財政上の必要性はなく、さらに変更後の就業規則で月数を0にする相当性もないこと、を立証し、準備書面でも主張しています。
 青山学院の教職員組合及び原告の姿勢は、明快であり、一貫しています。学校法人青山学院と教職員との現在及び将来にわたる安定的、協力的、建設的な労使関係を築くことを目指しています。

  その基盤となる信頼関係は、青山学院の現状について、なぜそうなっているのか、そして将来どうしていくのかについて、情報を共有すること、真摯に話し合うこと、互いに納得できる合意点を見いだしていくことによって築かれます。また、私たちは、学校法人として社会的な責務を果たすために、現在の建物や設備を更新するだけでなく、さらに高度な設備を建設する必要があり、その投資のためにどうしても資金が必要であるならば、具体的な計画・必要性について情報を共有したうえで、月数の一時的あるいは持続的な削減のために交渉する意志があります。決して、就業規則は権利だから学校法人がどうなろうともらう、といっているわけではありません。そのことは、団体交渉を通じて従来から表明してきました。

 将来のことは不確定要素があるとしても、計画を持ち、現実のさまざまな不確定要素に直面して、それを修正していくというのが通常の経営です。そして、将来の経営計画は、過去の経緯とともに認識する必要があります。例えば、将来の投資資金が足りないとすればそれはなぜなのかを明らかにし、過去に無駄な投資をして資金不足になっているとすればそのことをはっきり認め、その経営判断に問題がなかったかを検証する必要があります。それは、多額の資金を預かり、将来に向けて投資をする経営者として当然の義務です。その結果は、当時の状況での判断としては妥当であったが、結果として失敗したということなのかもしれません。また、ある責任者の判断ミスかもしれませんし、責任者が誰かがはっきりしていなかったことが分かるかもしれません。そうした検証の上に立って、初めて責任ある将来計画が語れるようになります。

 私たちは、学校法人の経営に当たる理事の方々の考え方やどのような根拠に基づいて判断をされているのかについて、提訴前の団体交渉の場において繰り返し説明を求めましたが、私たちにとって、全く、理解、納得することができない説明でした。ですから、私たちは、裁判所という公開の場で第三者による法に基づく解決を求めたのです。

 

〔和解協議への努力と挫折〕

 それでも私たちは、話し合いで解決できれば良いと考え、学校法人の希望に沿って法定外での相対の和解協議に臨みました。しかし、その協議の場での議論は、常務理事の交替があったにもかかわらず、歩み寄りという観点からは相変わらず絶望的なものでした。

 第一に、財務状況や将来計画について、口頭で述べられるだけでした。一時金削減問題が発生してから以後、今の今まで、法人が適切な情報共有をしようとしたことは一度もないのですが、和解協議においても、その状況に変化はありませんでした。原告や組合員にも公にできない資料では原告や組合員との情報の共有もできず、解決は不可能です。

 第二に、これまでの経営判断について、理事者としての責任については全く語られませんでした。なぜこうなっているのか、説明も検証もないままに、現在の財務状況について説明を繰り返すだけでした。

 第三に、学校法人からは、提示した和解案は学校法人の財務状況とは無関係と言い放ちました。無関係という意味は、学校法人の財務状況からすれば1円も払えないし、就業規則への月数の規定も0ヵ月であるが、訴訟を解決するために、無理をして提示したものである、との認識が示されました。これは、今回は訴訟をやめさせるために無理をして和解案を提示したが、訴訟終結後は更なる一時金の削減を行うことを宣言したことに他なりません。客観的にみて、そのような財務的根拠がないにもかかわらずです。

 法定外での話し合いを3回行いましたが、学校法人の説明は、さらに話し合いでの解決を困難なものにしています。また、そもそも将来計画があやふやである上に、これまでの学校法人の経営を含めた検証もできていないのですから、これからどんな計画を立てようともいい加減な支出が行われ、経営の失敗が教職員の賃金の切り下げによって補填されるのではないかという経営リスクが心配されます。そのような中では、安定的な労使関係を築き、訴訟を和解に導くことは不可能です。

 この上は裁判手続きの中で、法人が正当・合理的と考える主張を原告団に対し、第三者である裁判所という公開の場で行っていただき、法に基づいた判断を仰ぐ所存です。
教職員組合は、裁判手続きの中で得られた結論にもとづき法人との将来にわたる健全な労使関係を築き、青山学院に働くすべての人々が学院の未来を共有できるよう、誠実に努力していく所存です。

 

以上

青山学院大学教職員組合

訴訟対策委員会

(2016年7月20日)